日本企業の中国撤退について ある税理士先生の考え方

 先日、税理士の友人から東京税理士会会報『東京税理士界』に寄稿した論文のコピーをいただきました。ここ数年激化している米中対立という現実に日本企業がどう対処するべきなのかについて論じた内容です。実に濃い内容です。中国は今やチャンスではなくリスクとして考えるべき国となっていますが、企業の経営に関わる専門家として税理士もこういった問題をよく理解していなければならないということなのでしょう。

 

『東京税理士界』No.791 論壇欄 https://www.tokyozeirishikai.or.jp/common/pdf/tax_accuntant/bulletin/2022/dec_01.pdf

 

 ハッキリ言って、私の頭ではこのような論文は書けません・・・、と、簡単に言ってしまったらそこで終わってしまうので、悪い頭を無理矢理振り絞って感想を書いてみようかと思います。

 知らなかったことが結構ありますね。たとえば「中国共産党の政策」の二段目に“外国の制裁に対抗して、中国は次の措置を取っている”として、いくつかの法律が紹介されています。さすがに「国防動員法」や「国家情報法」は知っていましたが、“サイバー三法”として2020年以降制定されてきた「サイバー安全法」、「データ安全法」「個人情報保護法」は知りませんでした。「反外国制裁法」は話題になったので知っていましたが「輸出管理法」は初耳です。

 また、知っているといっても内容について説明できるほど詳しく知っているわけではありません。ネット動画で専門家が説明しているのを多少聞いてきただけで、本当に内容を理解しているかといわれれば自信は無いですね。もしかすると中国に進出したり、中国企業と深い取引をしている日本企業の経営者たちも、そんなレベルなのかもしれません。未だに中国に進出だ、中国企業と協力だ、などと喜んでいる日本企業もあるようなので、何となく空恐ろしいような気がしますね。

 「デカップリングする場合」の冒頭部分も知りませんでした。「(おそらく“現地法人の”)解散・通常精算の手続きには、少なくとも6ヶ月~1年、通常でも2、3年はかかる。撤退の際には債務超過でないことが求められるため、日本の本社が現地法人に資金供給をし、債務超過を解消させるケースが多い。貸付については、外貨管理規制の関係上、投注差限度額の範囲でのみ実施可能である。」とあります。

 “投注差限度額”がどんなものなのか調べてないので分かりませんが、たぶん貸した金も一部しか戻ってこないということなんでしょう。正直言って、気分的に“盗人に追い銭”という感じがしないでもありません。10年ほど前に、中国に進出した韓国企業が一斉に現地工場を破壊して夜逃げしたというニュースがあったように思いますが、日本人は“馬鹿正直”ですから、きちんと処理して撤退しているんでしょう。

 日本人はホントに“いい人”なんだよなぁ。

 私としては、その前段の「デカップリングしない場合」という選択は論外だと思うのですが、中には“自殺願望”のある日本企業もあるんでしょう。

 日本企業が中国とデカップリングする上でやらなければならない事が「デカップリングする場合」の後半に結論として紹介されています。これだけ大量の日本企業が中国に進出してしまった以上、個々の企業が自分の判断だけで勝手に中国から出て行くのは難しいのでしょう。いずれにしてもサプライチェーンを中国以外に再構築しなければならないわけです。これは大変なことですよ。下手なことをやれば株主だって黙ってないでしょうから。

 結局日本国政府が個々の企業の脱中国をサポートしなければ無理だと言うことですね。国がそういう方向性なんだから仕方ないという状況を作ってあげれば株主だって黙るわけです。日本政府が資金的に脱中国をバックアップするとともに、アメリカの「CHIPS及び科学法」に類似する法律を整備して、脱中国が当然だという流れを作らなければならないということです。

 さらに中国進出企業の日本国内回帰を進めるのならば、たとえば電気料金が世界トップレベルでは困るわけです。建設国債を勢いよく発行して国内のエネルギーインフラの整備を進めなければならないはずです。

 友人は「改正外為法をより堅固にし、日本版エンティティリストを作成して、サイバーセキュリティ対策を整備する。」と書いていますが、そうなるとやはりスパイ防止法は必須でしょう。

 最後に友人は「中国から撤退して国内に戻る際の損失を別枠の特別損失に計上し繰越控除ができるように税法上の特別措置をもうける」と書いています。さすが凄腕の税理士です。こういう指摘は普通の人にはできません。このような税務的環境が整備されれば、中国から出て行った方がむしろ得ですよ、ということになり株主対策としても有効じゃないでしょうか。

 さて、私もそれなりに中国に関係する仕事をしてきましたし、様々な中国人とも接してきました。その上で敢えて単純化して彼らなりの社会秩序の作り方について自分なりの考えを書いておこうと思います。あくまで個人の感想ですし、例外的な中国人もたくさんいるということが前提です。しかし、こういう傾向がある、とは言えると思うのです。

 中国人の社会は家畜と飼い主の関係が重層的に重なり合っている社会だと思うのです。家族親族あるいは自分の世界の内側に入っている人間に対しては、彼らは非常に情が厚く信頼もできます。しかし、その外側の人間に対しては、全く非人間的です。中国人にとって、自分の世界の外側の人間は、まるで“物質”のようなものです。利用できるか、利用できないか、という存在でしかありません。

 20年以上前、中国の農業技術雑誌に掲載されていた論文を定期的に翻訳する仕事をしていました。その頃は、中国の農産物が日本に大量に輸入されるようになってきた時代だったのです。まだ“毒餃子事件”が起きる前で、日本人の中国農産物に対する警戒感も薄かった頃ですね。

 その時代、一時期山東省の白ネギが大量に日本に輸入され、危機感を持った日本政府がセーフガードを発令して貿易制限措置を採ったのです。これについての中国側の論文を翻訳していたとき、その結論部分に面白い表現があったんですよ。曰く「日本人には“他人に迷惑をかけない”という道徳が存在するというが、今回のセーフガードは迷惑だからやめろ」というのです。

 単純な話です。例の“毒餃子事件”のときの中国側の反応でも分かるように、彼らにとって道徳や倫理や法律や制度というものは“相手に守らせるもの”であって“自ら守るもの”ではありません。彼らの作る道徳や倫理や法律や制度というものは、それを作る立場にある人間が自らの利益のために作るものであって、社会構成員全体が守るべきものではありません。

 家畜は飼い主に従うものなのです。
 家畜を飼い慣らすにはどうするか。囲い込み、依存させ、支配するのです。

 利用できそうな相手は、最初はいい思いをさせるのです。金に目が無い奴には金を、名誉に目が無い奴には名誉を、異性に目が無い奴には異性を。そうやって精神的に無防備にさせていき、気がついたときは飼い主のエサ無しには生きていけなくしてやるのです。その後は生かそうが殺そうがこっちの勝手です。そして骨の髄までしゃぶり尽くしてやるんです。中国大陸の権力者たちは歴史的にずっとそうやって生きてきたわけだし、それが彼らの常識なんです。

 日本人はお人好しすぎますよ。自分たちが家畜にされ食い物にされていることに未だに気がついていないのですから。いずれにしても中国人(本当は正確に“漢族”と書くべきかもしれません)と日本人では世界観が全く違います。日本人は他人に対して良いことをすれば、きっとそれは自分にも返ってくると信じています。良いことをすることそのものに喜びを見出す人も少なくありません。

 私の知る限り、そういう中国人はごく少数だと思います。彼らにとって他人は、自分の利益のために利用するべき存在です。利用できそうだと思えば自分の利益のために家畜化しようとしてします。これを中国共産党の精神文化という人もいますが、私は漢族が歴史的に培ってきた悪習だと思います。これは治そうと思っても簡単に改まるものではありません。

 ・・・でも、さすがにこんなこと、公然と言うわけにはいかないかな。