人口侵略の光景 その三

 イリシャット・ハッサン・コクボレさんの『維吾爾雄鷹 伊利夏提① 中国植民統治下的「東突厥斯坦』P206の「為什麽是烏魯木齊火車站」という文章の最後の部分の翻訳を続けます。

 ある種の絶望的感覚というものを、私はこのイリシャットさんの文章から感じるんですよ。とにかく大量の漢民族が途絶えること無く自分たちの“国”に押し寄せてくるんです。最初はごく少数の飢えた哀れな人々にすぎなかった連中が、やがて社会の至る所で権力を掌握して支配者として君臨していく。この奔流に抵抗することの難しさ。

 文中にある“政治的移民”とは、中国が東トルキスタンを占領するために送り込んでくる漢民族の移民のことです。過剰人口で溢れかえっている漢民族の他地域への棄民政策といってもよいのかもしれません。これは東トルキスタンチベット南モンゴルだけがターゲットではありません。日本もそのターゲットの一つと考えなければなりません。

 それでは最後の部分の訳文です。
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投げ捨てたいくらい大量の政治的移民

 鉄道や列車に関するお話がもう一つある。それは一種の政治的ブラックユーモアのようなもので、たしか80年代後半のものだったに違いない。

 話の内容はこんな感じだ。ウルムチに向かっている客車の四人がけの座席にアメリカ人、日本人、ウイグル人、そして漢民族の移民が一人ずつ座っていた。列車の走行中にアメリカ人がケント(タバコ)を取り出してちょっと吸っては捨て、またちょっとすっては捨てていた。我慢できなくなった日本人がアメリカ人に「何だってちょっとしか吸わないで捨ててしまうんだ?」と尋ねると、アメリカ人は自慢げに肩を怒らせて「アメリカではケントなんて珍しくもないし、安いんだ。捨てたってかまわないのさ。」と答えた。

 これを聞いて腹を立てた日本人は、手に持っていたパナソニックの小型ラジカセを放り投げた。それを見たウイグル人が日本人に「何やってるんだ?何だってラジカセを捨てたんだ?」と尋ねると、日本人は尊大ぶって「日本にはパナソニックのラジカセなんていくらだってあるし安いんだ。捨てたってかまわないのさ。」と答えた。

 するとウイグル人は立ち上がって何とも仕方なさそうな表情で周囲を見渡し、近く座っていた漢民族の移民をつまみ上げて窓の外に投げ捨ててしまった。アメリカ人と日本人は慌てて問いただした。「あんたいったい何をしてるんだ?何だって人間を投げ捨てたんだ?」これに対してウイグル人は決然とした様子で答えた。「俺たちのところは政治的な移民が多すぎるんだ。だから見つけ次第捨てたってかまわないのさ。」

 いずれにしても、鉄道、列車、駅は、ウイグル人にとって植民と侵略の象徴でしかない。列車の発する音は、東トルキスタンの人々を虐殺する植民地政府の銃声や砲声と同じなのだ。ウイグル駅に次々と侵入してくる列車は、ウイグル人にとっては、略奪と搾取、そして政治的移民の洪水のごとき流入を意味しているに過ぎない。

 少しでも考える力があるウイグル人なら皆知っていることだが、漢民族の政治的移民の人口は、1955年にウイグル自治区成立時には10%に満たなかったが、現在では東トルキスタン全人口の半数にまで増加している。これら漢民族の政治的移民は、次々とやってくる列車に乗って途絶えることなく東トルキスタンに運ばれてきたのである。

ウイグル人は自分たちを守るには鉄道を爆破するしかない

 したがって、大多数のウイグル人は、まさに中国では知らぬ人がいない小説『鉄道遊撃隊』が描く鉄道遊撃隊員のメンバーのように、「侵略者を乗せてきて、資源を奪っていく」鉄道、列車、駅を憎んでいる。一稼ぎするために途絶えることなく流入してきて、定着した途端に尊大暴虐になって植民地政権の手下になっていく政治的移民たちについては、さらに強く憎んでいる。

 大多数の単純なウイグル人は、鉄道や列車、駅さえ無くなれば、あるいは爆破でもして列車の運行を阻止すれば、政治的移民は減少し、東トルキスタンの資源に対する大規模略奪もなくなると考えている。だから、鉄道、列車、駅は早い時期から反抗的ウイグル人の目標になってきた。成功したものもあるし失敗したものもある。成功した事件は共産党植民政府によって隠蔽されているに過ぎない。

 小さい頃から私は鉄道区の多くのウイグル人の仲間たちと上記のような鉄道や列車に関する話を聞いてきた。無知蒙昧で尊大暴虐な連中の極端な蔑視の中で、私たちは漢民族化教育を受けながら成長してきた。70年代から80年代にかけて鉄道労働者の給与水準は他の業種よりも高かった。この時代に私たちは幼少期を過ごしてきたが、自分が鉄道労働者の子供であることを誇りに思ったことは一度も無い。

 それどころか、私たちは小さい頃から毎日漢民族中心の学校の中で民族的弾圧や差別を直接感じてきた。そして小さい頃から、大人になったらきっと星星路線やハミ駅を爆破してやるぞとお互いに誓い合い、吹聴しあっていた。私たちの資源を中国政府の略奪から守り、中国の政治的移民を阻止するには、そうするしかないと思っていた。

 小さな子供がこの様な極端な考え方を抱いているのだとしたら、鉄道や列車、駅がウイグル人の心の中でどの様にイメージされているのかを想像するのはさして難しくないだろう。この様に考えてくれば、430爆破事件を起こしたウイグル人の勇士が、なぜウルムチ駅を彼らの攻撃目標に選んだのかも容易に理解できるのではないだろうか。

(本文は2014年12月16日博訊新聞網に発表したもの)
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 まともな漢民族中国人がいることは知っています。安倍元総理の暗殺について、中国のSNS上には“祝福”のメッセージが溢れているそうですが、それを苦々しく思っている中国人もたくさんいるわけです。ただ、彼らの正常で常識的なメッセージは中国共産党に洗脳された連中によって一斉攻撃されて排除されてしまうのです。

 東トルキスタンを支配する漢民族中国人のマイノリティの感覚も、この正常で常識的な感覚に対する一斉攻撃と似たような性格を持っています。それが中国共産党による洗脳の恐ろしさなのです。まるで大繁殖して攻撃的になったイナゴの群れのようなものです。今後の世界は、このようなカルト国家中国と、どのように対峙していくかという大変な課題に向き合っていかなければなりません。

 

 それを理解している日本人って、いったいどのくらいいるのだろう?