人口侵略の光景 その一

 引き続きイリシャット・ハッサン・コクボレさんの『維吾爾雄鷹 伊利夏提』シリーズを読んでいます。現在は第二巻『維吾爾雄鷹 伊利夏提② 従中国出走與在美国重生』の後半部分を読んでいます。第二巻は第一巻より中国語的にはちょっと難しくなったでしょうか。

 第二巻では、イリシャットさんの学生時代の回想、イスラム教信仰への目覚め、東トルキスタンという祖国意識の覚醒、中共独裁政権の民族抑圧政策と家族親族の悲劇的運命、そして亡命。そうした事柄が紹介されています。

 東トルキスタンは日本人にとっては遠い遠い見知らぬ国です。そこで起きている悲劇についても、どこかお伽の国の夢物語のように感じてしまうのも、無理はないのかもしれません。しかしイリシャットさんのこの本を読んでいると、そういう距離感がなくなっていきます。

 東トルキスタンで起きた悲劇の、最大の要因は漢民族による「人口侵略」です。第一巻のP206から「為什麽是烏魯木齊火車站」という文章が始まります。ここに1960年前後の飢餓の時代に大量の中国人がウイグルに押し寄せた光景が描かれています。ウイグル人は優しい人々なので彼らを迎え入れ食べ物や住む場所を用意してあげたりしたようです。

 ところが、その後様子が違ってくるわけです。「軒先を貸して母屋を取られる」という現象が東トルキスタンで始まるのです。その先兵になるのが鉄道であり、新疆兵団です。これは教訓として日本人が知っておくべき歴史的事実ですね。

 日本でもひたひたと「人口侵略」が進んでいる・・・のではないでしょうか。
 今回の選挙では、その辺も考えて投票したいものです。

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なぜウルムチ駅だったのか?

一般の人間は近寄れない政府の建物

 2014年12月8日、中国共産党植民地政府はウルムチ中級法院において秘密裏にイリハム・トフティ教授の八名の学生の裁判を行った。その同じ頃、この中級法院では430(4月30日)ウルムチ駅爆破事件及び522(5月22日)ウルムチ公園北街爆破案に関与したとされる容疑者十七名のウイグル人の裁判も秘密裏に行われていた。判決は八人が死刑、執行猶予付き死刑が五人、無期懲役が四人だった。

 もともと私は早くからこの爆破事件について自分なりの見方を持っており、私の知り得た事実について皆さんにお話ししたいと考えていた。ところが他の要件で忙しく、なかなかそれができなかった。その後、この二件の爆破事件は過去の出来事となってしまい新鮮さも失われてしまった。そこで私は判決が出次第文章を発表しようと考えたけれども、やはり様々な原因で遅くなってしまった。

 今日は、430ウルムチ駅爆破事件と522ウルムチ公園北街爆破事件の重大判決が出てから一週間だけれども、やはりもう新鮮さはないかもしれない。しかし私は考え直してみた。爆破事件の背景やウイグル人の見方、あるいはいくつかの事実について語ることは、もしかしたらウイグル人の考え方についてよく知らない大部分の中文読者にとって、すこしは参考になるのではないかと思い、この文章を書くことにした。再度書くことによって、ウイグルのために生きる者として、私の記念にもなるだろう。

 先ず最初の疑問点。なぜ爆破事件の場所はウルムチ駅とウルムチ公園北街だったのか。多くの人が、なぜ暴虐な殺人鬼である共産党の軍警や兵営ではなかったのか、なぜ見かけは真面そうな共産党の高官たちが集まる党委員会や政府庁舎ではなかったのか、と思うだろう。あるいは暴利を貪る汚職官僚の乗る乗用車ではなかったのか?

 皆さんも明確に知っているとおり、祖国に殉ずるウイグルの勇士たちは言わずもがな、歎願直訴をする漢民族の庶民でさえ、整然とした共産党の党委員会や政府庁舎に近寄ることはできないし、まして高官が乗車する高級乗用車など論外。共産党の番犬・・・軍警やその兵営に接近することに至っては完璧に不可能だ。

 そうでないならば、共産党政権が「うつ病であり世の中に不満を持っている」として簡単に罪名をつけてさっさと処理してしまう漢民族の暴徒は、どうして幼稚園や貧しい人々を満載した路線バスを襲撃対象に選ぶのだろうか?

鉄道は中央政府が管理し中国共産党が資源を略奪

 鉄道、列車、駅の設置は、多くの民族にとっては、現代化、新文明、豊かさ、発展の始まりを意味している。鉄道による輸送は、人々と貨物の交流の増加を加速化させ、それと同時に新しい思想や新しい文明ももたらされる。多くの民族は、新しい文明や新しい思想、民主主義や自由といった普遍的価値をもたらす鉄道、列車、駅に誇りを感じるだろう。

 中国を例とすれば、鉄道、列車、駅は、中国現代化啓蒙運動・・・「洋務運動」の一部となるだろう。民主主義や自由といった新文明は、最後まで鉄道に伴う現代化の象徴となり中国に根付くことはなかったけれども、やはり多くの中国人が自分たちで作った世界最長の鉄道や列車に誇りを感じているだろう。

 しかし、ウイグル人いとって、そしてウイグルのその他の土着民族にとっては、様相が全く違っている。現代化を象徴している鉄道、列車、駅は、ウイグル人にとって、そしてウイグルのその他の土着民族にとっては、侵略と虐殺と略奪、そして被差別化を意味していた。そして、洪水のごとく押し寄せる漢民族の政治的移民によって、ウイグル人は自分たちの土地にいながら日を追って貧しくなっていった。

 現代化を象徴する鉄道、列車、駅は、ウイグル人ウイグルのその他の土着民族に何らの新文明ももたらさなかった。民主主義も自由も、現代化に伴う豊かさも発展もなかった。有ったのは、思想的には時代逆行や愚昧、保守、政治的には人々を窒息させるような独裁統治下の虐殺と圧政、経済的には徹底的な略奪と搾取、生活的には大規模で広範囲な極貧化でしかなかった。

 このため東トルキスタンでは、ほぼ全てのウイグル人が鉄道、列車、駅に何の誇りも感じていない。鉄道関係の仕事をしているウイグル人でさえ誰も何の誇りも感じてはいないのだ。
 「東トルキスタンの鉄道システム」は、中国共産党政権「鉄道部」所属の派遣組織であり中国中央直属の組織として、ウイグル自治区の管轄範囲外にあり、その運行についてウイグル自治区には関与する権利がない。「東トルキスタンの鉄道システム」は、新疆兵団や中国石化など中共中央直属の組織同様、完全に独立した「国中の国」となっている。彼らは中国共産党が勝手気ままに東トルキスタンの資源を略奪するのをサポートしている。彼らは中国共産党政権の東トルキスタンの各民族に対する植民地政策の実行をサポートしているのだ。
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 この話、まだ続きます。