民族抑圧下のウイグル農民 その一

 引き続き、『維吾爾雄鷹 伊利夏提① 中国植民統治下的「東突厥斯坦』です。イリシャットさんが発表してきた比較的わかりやすい中国語の短文がたくさん掲載されている本なので中国語の教科書としても実用的な本です。もちろん一文一文を読みながら現在の中国が抱えている深刻な問題を理解していくこともできます。

 ロシアによるウクライナ侵略が世界中の関心の中心になってしまったので、同じ巨大独裁国家である中華人民共和国の問題がかすんでしまいましたが、ウイグルチベット南モンゴルを中心に、21世紀の人類にとっての難題が厳然と存在しています。おそらく問題の質は酷くなることはあっても解決に向かいことは当面ないような感じです。

 帝国主義時代の残渣が、これらの独裁国家に残っているとも言えるし、これらの国々は世界をその時代へ引き戻そうとしていると言うこともできるかもしれませんね。その時代からほぼ抜け出して新しい時代へ進もうとしている自由民主主義諸国の国民にしてみると、これは恐怖であり残念なことです。 

 さて、今日は『維吾爾雄鷹 伊利夏提① 中国植民統治下的「東突厥斯坦』のP182~P185に掲載されている短文“その一”です。ウイグルでは“強制収容所”が問題になっていますが、すでに2014年頃から全ウイグル人の監視体制ができあがっていたということですね。
 私は思うんですがね。いったい何時まで日本はこの様な非人道的国家と“友好関係”を続けるのでしょうか。こんなことを続けていたら、そう遠くない日に日本人もウイグル人と同じ境遇に追い込まれることになりますよ。

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民族抑圧下のウイグル農民 その一

 全家族のすべての動きを監視する十戸長

 先週のことだが、思いがけず東トルキスタンからアメリカにやってきて間もない一人のウイグル青年に出会った。彼はカシュガル付近の疏勒県の農村の出で、両親兄妹もみな農民だ。
 話の中で、私は特に東トルキスタンウイグル農村の現状について質問した。彼は自分の知っていることをすべて詳細に答えてくれた。今日は、そこから私が知ったことについて書こうと思う。その目的は一つ。皆さんに東トルキスタンウイグルの農民が現在、毎日毎日この瞬間にも直面している史上例を見ないような民族抑圧と民族別紙について知ってもらうことだ。

 この若者が言うには、現在東トルキスタン南部のウイグル農村では、ウイグル人家庭十戸で一つの保安グループを組織し、中国共産党植民地政府はこの十戸のウイグル人家庭から信頼できる一人のウイグル人を十戸長として選任ししているという。十戸長は所管の十戸のウイグル人家庭の全動態の監視・監督に責任を負い、その内容は来客、婚礼、慶事、葬儀、招待、親戚同士の集まりなどにまで及んでいる。

 如何なるウイグル人も客を招くときや親戚同士で集まるとき、婚礼や葬儀の際には、先ず十戸長にすべて報告しなければならない。十戸長の審査を経て後、十戸長署名の報告書を持って村長と村共産党支部書記、村駐在警察の決裁を受けなければならない。

 十戸長の審査を経ず、村長や村共産党支部書記、村駐在警察の決裁を受けない場合は、如何なるウイグル人家庭も自宅では何の活動もしてはならないのだ。客を招くことや婚礼や葬儀もできないし、集まって礼拝することもできない。もしやれば、それは非合法の集会であり非合法の宗教活動とされる。

 婚姻や葬儀、親戚同士の集まり、客の招待について、ウイグル農民は事前にその人数や氏名住所を報告することが要求されている。それらを行うには、十戸長と村や郷での審査を経なければならない。しかも、決裁を得た後は、その家族が勝手に参加人数を変更したり増やしたりすることはできない。通常、十戸長は現場で監督し、村や郷の警察は自由に現場に出入りして人数や身分証の確認をすることもできる。

人々は家に鍵をかけることは許されず、深夜に調査を受ける

 仮にウイグル農民が十戸長の批准を受けなかった場合、それを飛び越えて村長や村共産党書記、村駐在警察に何らかの手続きもしてもらうこと不可能となっている。事実上、十戸長の審査報告書がなければ、村長も村共産党支部書記も村駐在警察も何の手続きもできないのだ。

 ウイグル農民が郷政府に行って手続きをしようとしても同様である。先ずは十戸長の審査報告書に署名をもらい、改めて村長や村共産党支部書記、村駐在警察の決裁を受け、これらの責任者の署名のある報告書を手にして初めて郷政府を訪問し郷幹部に手続きをしてもらえるのだ。

 郷政府の門前には武器を持った協警(警察の補助人員)がおり、政府の建物の中には武装警察が駐在している。もしもウイグル人が強行突破しようとしたら、凶悪犯罪とされ、その結果は想像に堪えないものになるだろう。軽ければ捕まって監獄に放り込まれ、重ければ武装警察によって射殺されることになる。

 如何なるウイグル農民家庭も、夜眠るときに家の戸に鍵をかけることは許されていない。庭の門も家の戸もすべてである。家の門も戸も必ず開けておくのは、政府の役人がいつでも自由に出入りし調べることができるようにするためだ。もし鍵をかけたら、それはつまり問題が存在する証拠であり、何かを隠していることを意味する。調査員はすぐに軍警(軍及び警察)を呼び、門を破壊して侵入させることができる。その結果については、すべてそのウイグル人が負わなければならない。

 夜間の訪問捜査はすべて突然行われ、時間は決められていない。捜査には一般的に十戸長に村長、あるいは村共産党支部書記か村駐在警察、そして二三人の協警が加わる。一旦捜査が始まったら、家族は全員起きて一つの部屋に集合し質問に答えなければならない。大人も子供も誰一人例外はない。捜査員は自由にタンスや箱を開けて捜査を行うことができる。ウイグル人家庭は一般的に、二三日に一回訪問捜査を受けなければならないが、その時間はほとんどが深夜過ぎである。

 最も悲劇的なのは、中国共産党植民地政府のブラックリストに載っているウイグル農民の家庭だ。どの村にも重点捜査対象となるブラックリストが存在する。ブラックリストの家庭のほとんどは敬虔なウイグルイスラム教徒の家庭である。ブラックリストに載るような敬虔なイスラム教徒の要件とは、時間通り一日五回の礼拝を行い、コーランを読むことができ、イスラム教の基本概念を説明することができるウイグル農民のことでしかない。

出版を許可されたウイグル書籍も没収

 重点的に監視されている家庭は、毎日軍警や村駐在警察による不定期の抜き打ち式捜査を受けている。昼夜に係わらず、軍警や村駐在警察は誰からの許可も得る必要なくブラックリストに載った家庭を捜査できるのだ。ブラックリストに載った家庭を捜査する時間帯は、ほとんどの場合明け方で、完全な抜き打ち方式で行われている。

 非常に興味深いのは、この若者が言うには、ウイグル人家庭を捜査する村や郷の役人や軍警はウイグル語の書籍について見つけ次第没収していることだ。没収書籍はイスラム教に関する宗教的な書籍だけでなく、文学や歴史、科学といった内容のものにも及び、合法的であるか非合法であるかも関係ない。

 この若者はさらにこう続けた。現在ウイグル人家庭において捜索されるウイグル語の書籍は、イスラム教に関する宗教書籍はごく僅かで、大多数がウイグル語の文学や歴史の本であり、そのうちの多くが中国語から翻訳された文学作品などの正規の本としてウイグル農民たちが新華書店で買ってきたものなのだ。つまり、これらの書籍は中国共産党植民政府が許可して出版したものなのだ。

 しかし、村や郷の役人、軍警の捜査員はウイグル農民の説明など聞く耳を持たず、ウイグル語の書籍は見つけ次第強制的に没収している。彼らに道理を説こうとすれば、厄介なことに巻き込まれることになるし、彼らに連行されたら、おそらくさらに大きなトラブルになるだろう。だからウイグル農民たちは黙って彼らに勝手に捜査させるしかないのだ。

 このような非人道的待遇、明確な民族抑圧、民族蔑視に対して、ウイグル農民が文句を言ったり反抗したりすれば、本人とその家族は様々な困難に直面することになる。つまり、投獄であり銃殺であり原因不明の失踪である。したがって大多数のウイグル農民は怒りを感じても我慢して沈黙するしかない。

(本文は2014年8月16日に博訊新聞ネットに発表したもの)
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 “その二”は近日中に掲載します。