2011年頃のウイグルのある小学校で光景

 イリシャット・ハッサン・コクボレさんの『維吾爾雄鷹 伊利夏提① 中国植民統治下的「東突厥斯坦』を読んでいます。もうあと少しで読み終えますかね。

 

 

 イリシャットさんは、1962年東トルキスタン・伊寧県生まれのウイグル人です。ウイグル問題に詳しい人の間では非常に有名な人ではないかと思います。1988年大連理工大学化工学部卒業ということなので、もともとは理系の知識人なんですね。東トルキスタンの石河子技術学校教師培訓学院でウイグル語と化学工業について教えた後、2003年にマレーシアに亡命。2006年に国連難民署の手配で渡米。2013年にアメリカ国籍取得。その後アメリカ・ウイグル協会主席を2019年まで勤め、現在は世界ウイグル会議の中国事務部主任をしています。

 以前、YOUTUBEで彼の動画を見たことがあるんですよ。非常にわかりやすい中国語で、現在世界的に注目されているウイグル人強制収容所問題の発端について解説していました。この強制収容所の話、アメリカ政府も最初は信じていなかったんですね。中国から漏れ伝わってくる情報をイリシャットさんたちがアメリカ政府に話したところ、最初は「そういう大げさな話をしていると信用をなくしますよ」とたしなめられた、というエピソードを語っていました。この経緯から、この問題がアメリカ側のねつ造やプロパガンダではなかったことがわかります。

 『維吾爾雄鷹 伊利夏提① 中国植民統治下的「東突厥斯坦』に話を戻しますね。

 この本も非常にわかりやすい中国語で書かれています。イリシャットさんはこれまでたくさんの論文やエッセイを書かれてきたのだと思いますが、この本はその内の代表的な文章をセレクトして掲載しているようです。いずれも短く端的に事の本質を表現したものなので、読む人の心に素直に響いてくる感じがします。現在ウイグルで起きていることは、小難しい論文で長々と表現しなければならないような複雑な問題ではなく、実際には単純きわまりない現象にすぎません。

 漢民族は自分たちと違ったものを受け入れない。
 受け入れないだけでなく、抹殺しようとする。
 しかも、その理由を相手のせいにする。

 この三行で十分です。もちろん、この範疇に入らない漢民族の人間もいる、ということは前提ですが、大きな集団としての漢民族にこの傾向があることは間違いないと私も思います。だから、集団としての漢民族は、他民族にとって非常に危険な存在なのです。これ、台湾人は十分に理解していますよね。

 ウイグル・・・東トルキスタンで起きていること、あるいはチベット南モンゴルで起きていることは、決して日本にとって「他人事」ではありません。現在日本国内には約100万人の中国人が存在していると言われています。帰化したもの、永住権のあるもの、短期的な滞在、いずれにしてもその大半は漢民族です。良心的な人もいる、ということは前提ですが、集団としては要注意です。

 ウイグルチベット南モンゴルで異民族抹殺を実行しながら、日本では従順におとなしく日本の国柄や法律、制度、文化を尊重してくれるなどと考えるのは、脳天気すぎる考え方だとは思いませんか。

 『維吾爾雄鷹 伊利夏提① 中国植民統治下的「東突厥斯坦』の29ページから33ページにかけて、2011年頃のウイグルのある小学校での出来事が紹介されていました。強制収容所が林立している現在では、このレベルの出来事すら牧歌的な民族差別のエピソードになっているのかもしれません。まぁ、軽く訳してみたので読んでみてください。

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ウイグル人であることは間違いなのだろうか?
(ある匿名ウイグル人が書いた短文の翻訳)

ウイグル語を話さないように言い聞かせる教師

 眉毛が濃くて目が大きく、鼻筋が高く、背も高いウイグル人教師アディリが教科書を持って教室に入ってきた。教室の5歳から6歳の52人のウイグル人の子供たちは揃って起立をして覚束ない中国語で「老師好!(先生、こんにちは!)」と言いった。アディリ先生は注意深く生徒たちを一人一人見つめ、彼も中国語で「同学們好!(みなさん、こんにちは!)」と答えた。さらに中国語で続けて「同学們、請座。(では、座ってください。)」と言った。

 アディリ先生は引き続き中国語で子供たちに「今日は『自治区』の偉い人が私たちの学校へ視察にきます。学校は『自治区』の偉い人に私たちのクラスを見てもらうことにしました。」と話した。「もしも偉い人に話しかけられたら・・・」アディリ先生は強調して「みんな、覚えておいてくださいね。必ず中国語で答えること。笑顔で答えること。しゃべりすぎたらいけませんよ。」と言った。

 アディリ先生はさらに何かを思い出したように、厳しい口調で「みんな、絶対に忘れないように。絶対に、絶対にウイグル語を話してはいけません!」と付け加えた。

 アディリ先生が授業をしている最中、突然教室のドアが開き『自治区』の指導者たちのグループが、学校の管理職教員たちに案内されて入ってきた。その後ろには、録音機やカメラなどを持った記者たちが大勢ついてきていた。フラッシュが頻繁に光り、教室内の雰囲気は少し緊張した。突然現れた招かれざる客たちの出現に子供たちも非常に緊張した様子だった。

 子供たちの目もアディリ先生や学校の管理職教員たち目も、厳しい表情で前を通り過ぎる背の低い指導者の姿を追いかけた。この背の低い指導者は、五体短小、でっぷりと太った男で、一見して今日の最高レベルの肩書きであることがわかった。しかし、彼はどことなく自信なさげに見え、少し不安そうに緊張しているように見えた。何か問題が起きないかとびくびくしているようだった。

 背の低い指導者は教室全体を見渡し、急に双子の兄弟の一人Tughluhjanの机の前に進んでいった。彼を見つめながら指導者は調子外れの中国語で「君の名前は何て言うのかな?」と質問した。「僕は図格魯克(中国語)と言います。」彼は怯えながら答えた。

わぁ、あなたはウイグル人だったのですね

 指導者は満足げに彼の教科書を取り上げてページをめくり、やはり調子外れな中国語で「このページを読んでごらん。」と彼に言った。彼は教科書を持って、覚束ない中国語で読み始めた。「中国共産党好、社会主義好、民族団結好。(中国共産党はすばらしい、社会主義はすばらしい、民族団結はすばらしい。)」

 背の低い指導者の顔に笑みが浮かび、学校の指導者たちも緊張が解けたようだった。歴史的な出来事に出会った記者たちは、指導者と彼の写真を撮りビデオに納めた。指導者は満足げに彼の肩をたたき、下手くそな中国語で「すばらしい、すばらしい!」と何度も言った。

 子供たちもこの緊張した雰囲気に慣れ始め、Tughlukjanも緊張が解けて気が緩んだようだった。背の低い指導者の笑顔に促されたのか、Tughlukjanは自信を持って中国語で「おじさん、お名前は何とおっしゃるのですか?」と尋ねた。背の低い指導者は再び下手くそな中国語で「私は司馬義・提力瓦地(スマイ・テリワディかな?)と言うんだよ。」と答えた。子供の自信がこの背の低い指導者にも自信を与えたようだった。指導者の笑顔は更に輝いた。

 突然、天真爛漫で可愛らしいTughluhjanは背の低い指導者に向かって、極めて流暢なウイグル語で「Siz Uyghurkensizde!(わぁ、あなたはウイグル人だったのですね!)」と言ってしまった。

 背の低い指導者の表情は一瞬にして曇り、しかめっ面になった。学校の管理職教員も記者たちも唖然としてTughluhjanを見つめ、何を言ったらよいか、何をしたらよいか、全くわからない感じだった。Tughluhjanも気まずい雰囲気に気がついて、救いを求めるようにアディリ先生を見つめた。しかし、アディリ先生は、呆然とTughluhjanを見つめるしかなかった。アディリ先生の目には、あきらめ、困惑、悲憤の感情が浮かんでいた。

 背の低い指導者は声を震わせながら黒板に近づいていき、震える手を振り回しながら、学校の管理職教員とアディリ先生に向かって下手くそな中国語で怒鳴り始めた。「おまえらはみんな失格だ、学校の管理職も替えなければならん。」そして、子供たちには目もくれず威嚇するように慌てて教室を出ていった。

 Tughluhjanは泣き出してアディリ先生の懐に飛び込んでいった。アディリ先生は彼をしっかりと抱きしめて深いため息をついた。アディリ先生の表情は茫然とし悲憤に満ちていた。彼は一言もしゃべることもできずにいた。教室内のその他の子供たちも驚きの表情のまま茫然としていた。何人かの女の子は泣き出していた。

背の低い小心者の指導者の怒り

 背の低い指導者は学校の会議室に入り、引き続き震える手を振り回しながら、中国語で学校の指導者たちを叱責し続けた。「おまえたちの党に対する態度は何なんだ?党がおまえたちに仕事を与えたんだぞ。にもかかわらずおまえたちは党を騙すつもりか?さっき見ただろう、あの嘘つきのガキを。ウイグル語で質問してきたんだぞ。なんていう大胆な奴だ?テロリストの子供なのか?きっと分裂主義者に違いない!」

 さらに彼は中国語で「今日限りであのガキを退学させろ!それからあの教師も仕事を辞めさせるんだ。ウイグル民族の学校管理者は全員業務を停止して今日の重大問題の原因をつきとめさせろ!漢民族の学校管理者は、今後二度とこんなことが起きないように注意するように!」と喚いた。

 Tughluhjanが家に戻ったとき、家の門の前に父親と母親が待っているのが見えた。彼は思わず父親の懐に飛び込んだ。心に深い傷を負った彼は泣きじゃくった。母親はそのそばで気が気でないような面もちのまま何を話してよいのかわからない様子だった。しばらくしてTughluhjanは心配そうに父親に向かって「パパ、今日学校であったこと知っているの?」と尋ねた。父親は頷きながら「そうだよ。知っている。学校の先生が電話で教えてくれたんだ。」と答えた。

 Tughluhjanは言い訳をするように「パパ、僕は本当にわざとやったんじゃないんだよ。どうしてかわからないけど、気がついたらウイグル語を話しちゃったんだ。」と言った。

 「いいんだよ。わかってる。おまえは間違っていないよ。」
 「でも、パパ、学校の先生たちは、みんな僕が悪いって言ってるんだ!どうしてわかってくれないんだろう!」
 「パパ、僕たちはウイグル人であるよりも漢民族みたいになった方がいいんだよね、そうだよね?」

 母親が手を伸ばすよりも早く、父親がTughluhjanの頬を叩くのが早かったのかもしれない。Tughluhjanは地面に倒れ込んだ。母親の目には涙があふれ、恐怖で震えるTughluhjanを抱き抱え、家の中に入っていった。父親は苦痛に満ちた表情で家の中に入っていく子供と母親の背後を見つめ、悲憤のあまり天を仰いで言った。「おお神よ、いったいウイグル人であることは罪なのですか?」

(この真実の物語は、東トルキスタンの首都ウルムチのある小学校で発生した事件だ。背の低い指導者の名前以外、関係者を保護するために原作者はその他の登場人物の名前を別名に替えていた。)

(本文は2011年1月12日に博訊新聞網に掲載された。)
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 最近では中国語の教材が掃いて捨てるほど本屋の棚に並んでいますが、義務教育で英語の勉強をしたときも感じましたが、興味も関心もないような内容の文章を読まされても、ぜんぜん頭に入ってきませんよね。自分の関心のある内容のものを読むなり聞くなりすればいいんですよ。そうすれば私のようなバカでも、イヤでも頭に入って来るものです。

 中国語を勉強するとき、中国共産党の提供するような教材を使っていたら、それこそアホになりますよ。自ら進んで独裁者に洗脳されるアホにはなりたくないですよね。