ロシアのウクライナ侵略を台湾人はどう見ているのか

 台湾の「民報」サイトに興味深い投稿記事が掲載されていたので簡単に翻訳してみました。2022年3月30日に掲載されたものですね。

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ロシア・ウクライナ戦争の特質と警告
葉俊雄(在米台湾人)

 2月24日、ロシアはウクライナへの侵略を開始、全世界が震撼した。ロシア軍は敵を軽く見ていたが、情報の錯綜や補給の準備不足、戦術は拙劣で制空権の確保も難しく、通信システムも安全ではなかった。一方、ウクライナは軍民ともに国家防衛を決意しており、勇敢に奮戦、高度な非対称戦術を発揮、熟知している地理的優勢を有効に活用し、機動的遊撃戦によって度々ロシア軍を撃破する戦果を挙げている。ロシア軍は“敵を知らず、己も知らず”という低レベルの戦略によって重大な損害を被り、万を越える兵士が戦死した(十数名の高級軍幹部及び指揮官を含む)。軍の志気は落ち、進撃は停滞、ロシア軍の速戦即決の計画は崩壊した。

 ロシアのプーチン大統領は正当な理由のない侵略戦争で世界の平和と安定を大きく破壊し、世界中の人々がこれを憤り非難した。アメリカを中心とした民主主義陣営は波状的に制裁を実施し、その範囲は経済、金融、貿易、空路など多くの領域に及んでいる。たとえば、最恵国待遇の取り消し、外貨準備の使用制限、金融機関の個人資産の凍結、輸出入の制限、領空閉鎖、外資企業のロシア国内での事業停止、原油輸入の禁止など、その対象は上は公的機関から企業、下は個人にまで及んでいる。これら一連の制裁はロシア経済に大きな損害を与えており、ルーブルは大きく下落、インフレの発生、原油輸出の急減少、外貨収入の激減、失業の増加、人々の生活の困窮などといった大きな苦しみをロシアにもたらしている。厳しい制裁は弾の飛び交わない戦争を始めたようなものだ。

 これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は首都キーフを堅く守っており、国民の志気を大きく高めている。全国民が固い決意を持って果敢にロシア軍に抵抗、海外にいたウクライナ人6万人が帰国して参戦している。さらにゼレンスキー大統領はオンラインで民主主義国の政府要人や国会議員と頻繁に会議を行い、説得力のある感動的な演説で高い評価を勝ち取った。世界各国は次々と軍事、情報、通信、経済、人道などに関する支援を提供しており、これらはロシアの侵略に対する民主主義陣営の団結と協力にもつながっている。

 民間のハッカー組織アノニマスも自分たち独自に攻撃を開始し、ロシアの政府や企業のサイトや情報収集衛星、電力ネットワークの制御システム、鉄道の運行システムなどにハッキング工作を仕掛けている。また、一万名以上の外国人がゼレンスキーの呼びかけに応じて「国際義勇軍」に参加し、ウクライナに向かった。外交、心理、世論、認知、サイバー空間、情報、科学技術、電子などの領域でも戦闘が始まっている。

 今回の戦争はこれまでの戦闘とは大きく異なっており、注意すべき点が多い。現代の戦争はすでに単なる軍隊どうしの戦いというわけではない。当然、先進的武器(無人機やミサイル、衛星)は依然として必要条件だが、戦争の形態はさらに複雑となり、全体的かつ多様性をもち、全てが繋がっている。

 台湾政府上層部は将来の戦争の特質を深くかつ全面的に研究し、国家の総体的戦略方針と目標、各部署の行動について厳粛に検討するとよいだろう。そして早期に研究開発、機関設置、訓練、強化を進めるべきだ。以下いくつかの簡単な意見を提供するので政府関係者の参考にしてもらいたい。

一、国家の安全を守ることは、もとより国防部の使命であり、その他の政府機関(たとえば経済、財政、科学技術、デジタル、交通など)も、戦時における役割に責任を負わなければならない。戦争が発生する確率がたとえ小さくても、それがもたらす被害はきわめて大きく、コストも非常に高くつくのだから、各政府機関は戦争をリスク管理の一つとして扱い、その対策を策定しておく方がよいだろう。(実際的なリスク評価をしてこなかった機関は速やかに行うべきだ)たとえば、要となる機関設備の強靱であるか、戦備や民生物資は十分か、通信システムは多様であるか、エネルギーと輸送システムは防御されているか、情報の安全性は確保されているか、担当者の技術と素質は養成できているか、などである。

二、国家防衛に対する国民の決意は戦争に勝つための鍵となる非常に重要な要素だ。全国民が国防戦力となり、危機に対して備えるべきである。私たちが望む「国民皆兵」の役割を達成するには、有効で実行可能な行動方針や物資、時間、指標を持つ必要がある。そして強大な侵略圧力を克服したいと思う。これはパラダイムシフトの具体的実践となるだろう。

三、友好国の支持と援助も重要な支えとなる。台湾は世界の生存システムの中で、先ず代替不可能な価値を持たなければならない(半導体産業のように)。そして積極的に国際社会に参与し貢献するのだ。たとえば、災害支援、建設、貧困解決等の国際的業務に協力して、世界の中で無くてはならない地位を築くのだ。人を助ければ必ず人から助けられる。台湾は必ず信頼できる多くの同盟国を得ることができるだろう。

四、台湾は平和的非暴力的手段によって独裁体制から民主主義体制への転換を成し遂げた。この誇るべき成果は世界の民主主義の手本であり、政治的自由度のランキングで第7位という地位を達成している。自由と民主主義を守ることは民主主義陣営共通の使命であり、現在のウクライナだけではなく、かつてはハンガリーポーランドチェコ・スロバキアなどもこの闘いを経験している。自分の国のためだけではなく、自由と民主主義という崇高な理想を守るために闘ったのだ。独裁者の威嚇と脅迫に対して、台湾は恐れることなく、民主主義陣営の側に立って自由と民主主義の体制を堅く守り続けなければならない。外的に厳しい侵略を受けたとき、この堅い信念と意志によって、必ずや民主主義陣営の「集団的防衛」の支持と援助を得ることができるはずだ。

五、後方支援と補給は軍隊の継戦能力に必要なものであり、補給を絶たれた部隊は、弾薬食料を失って悲惨な状況に陥ってしまう。台湾は島国であり四方を海に囲まれているので難攻不落である。台湾海峡によって中国から隔離されている(幅は約130から180キロ)。中共が軽率にも世界の安定を破壊し国際関係のルールを破って台湾侵略を画策した場合、我が軍は台湾海峡においてその補給線を破壊することができる(同盟国軍の協力が有ればさらによい)。我が軍は本島及びボウコから出撃、南北から連携機動で突撃し台湾海峡で共産軍の補給をブロック、さらに前後から共産軍を前後から挟み撃ちする。台湾海峡の戦いはウクライナの陸戦とは全く異なるので、異なった戦略・戦術の考え方が必要となる。これについて、我が国の国防当局はボウコ(及びその他の離島)の戦略的地位を重視し、その軍事的展開を強化したらよいだろう。同時に適切な海戦用の武器を慎重に選ばなければならない。たとえば、軽便で高速機動が可能な高性能艦船、軍用無人機、ミサイル、魚雷、戦闘機、電子作戦用の装備だ。

【民意論壇】俄烏戰爭的特質與警示 | 民報 Taiwan People News

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 久しぶりの翻訳なので多少自信のない部分もありますが、意味的には間違っていないと思います。私が注目しているのは二番目の意見ですね。国民に国防意識がなければ、先ず土台がないということなので、どんな武器があろうと、どんなに強力な同盟国があろうと、戦争に勝つことはできません。というか、相手に侵略を断念させることができません。

 いずれにしても、中国という強大な敵を目の前にしている台湾人の考え方は日本人よりはるかに具体的ですね。日本の方がよっぽど心配ですよね。